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第四章 黒人と無気力-ある売春婦の生活

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第四章 黒人と無気力-ある売春婦の生活

投稿 by kusamura on Fri May 22, 2015 6:27 am




ほんとうの悲劇は、だれも他人が彼のことをまじめにとりあげてくれないが故に
    自分自身をもまじめにとり上げてはいないということである。
                                                 (ケネス・クラーク『暗黒のゲットー』)


ほとんど完全に無気力な状態にあった若い黒人女性が、精神療法によって
自尊心を持ち攻撃性をそなえるにいたった発展のプロセスを説明しようと思う。
彼女は、無気力な状態のまま、生まれ、育てられている。

極端な形の無力性は、婦人の場合には、子どもを生むことができないということになる。
仮にマーシデスとここで呼ぶ黒人女性の抱いているたったひとつの願望は
夫との間に赤ちゃんを儲けたいということであった。
しかし、彼女は妊娠のたび、流産をするなり、あるいは
さまざまな理由で堕胎をしなければならなかったのである。


私がマーシデスとあったとき、三十二歳の彼女は,,,
白人の専門的な職業人と結婚して八年目,,,その結婚は崩壊寸前であった。
その理由のひとつは、マーシデスのいわゆる冷感症と
夫への性的興味の完全な欠如であった。

このときまで彼女は、流産ないし堕胎を八回にわたり経験していた。

彼女には、自分が援助が必要だといった何ら積極的な気持ちが全然なくて
自分の抱えている問題を宿命的なものと受け取っているように思われた。


最初の治療面接でマーシデスが私に語ったことは
彼女の継父が、彼女が十一歳のときから、二十一歳までの間、
彼女を売春婦として使っていたことである。

この継父は、学校が終わると、週のうち数度にわたって、
彼女のもとに男を連れ込むのであった。しかもそれは
母親が仕事から帰宅する前のことである。
表向き、母親はこのことについて何も知っていなかった。

マーシデスは、この売春から得たものは何もないと思っていた。
ごくまれな例外を除いて彼女にはなんら性的興奮がなく
ただ自分は望まれていたと感じているだけである。

どんな金銭のやりとりがあったにせよ、
彼女のポケットに流れ込んでくるものは何もなかった。
しかし彼女は、継父に「ダメ」と言えなかったし、
事実、その継父の期待に添ってゆくのを拒否するなどということを
想像することさえできなかった。


彼女は後になってコミュニティ・カレッジに通っている。
彼女の覚えているところだと、彼女のIQテストは、
130~140の得点をおさめている。
女子学生クラブに属し、活動を行い、学生らしい感動を体験している。


売春行為はその間も続いていた。


彼女が継父から離れるのは、カレッジを終えて保育学校へ行き、
母親の家から出て暮らすようになったときである。



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Re: 第四章 黒人と無気力-ある売春婦の生活

投稿 by kusamura on Fri May 22, 2015 6:29 am




マーシデスは、すなおな「よい」(nice)人物に見えた。

彼女は家族の中では、調停者の役割を引き受けていた。
黒人地区で育てられた彼女はうぶ声をあげたとたんから、
万人をよろごばせ、受身でいて、人生が彼女に課すなら
たとえどんな形の犠牲行為をも受け容れることを
自分のやることだと学んできていたのである。

彼女は、同居している祖母の面倒をこまめに見ていた。しかし
彼女は全然弱虫(sissy)どころか、自分のまわりの全ての人と同様、
闘うことを学ぶようになった。

彼女は、学校や街で、自分の戦いを戦うだけではなく
―こうした戦いで彼女はよく荒々しく激怒することがあった―
自分の弟が成長するにつれ、その弟を保護してやった。


あるレベルで、彼女が売春を憎んだに違いないという私の仮定は、
彼女が後ほど治療中に詳しく語ってくれた幼児記憶によって確証された。

親戚を訪ねたとき、彼女は、
雄ロバがそこに無感動のままに立っている雌ロバの中へ
そのペニスを入れようとしている姿を目撃した。

「私はそのロバを憎んだ」


彼女がこのコトバを吐いたときの激しさやまじめさからわかることは、
彼女は、その売春行為を
自分の気持に反する憎むべき犯罪とみなしていたことである。

                                                                             


最終編集者 kusamura [ Fri May 22, 2015 6:36 am ], 編集回数 1 回

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投稿 by kusamura on Fri May 22, 2015 6:34 am


 
 その表面とは裏腹に、マーシデスは、たいへん不安で、無感動で、
 慢性的にうつ状態にあることを知った。

彼女のような立場に置かれている人間はだれでも、同じようにうつ状態になる )
 われわれは彼女の生活の内的なダイナミックについてもっと見てみる必要がある。


1、怒りの喪失  
(*《マーシデスの見た夢》)


私が彼女に、治療に何を期待し私から何をのぞんでいるのかを尋ねたところ
マーシデスはしばらくのあいだ答えることができなかった。
 彼女はやっとのことでこう述べている。

「子どもを恵んでほしい。よい妻にして下さい。性を享受させてください。
 何かを感じさせてください」。

(彼女はある種の祈りのようにこんなことを口にしているのに気づいていた。)

第2回目の治療面接の際、彼女は(*愛犬ラヴィに関する)
つぎのような二つの夢を持ち込んできた。

(それらの夢は、極端によるべない女性のありさまを
 まざまざと描き出している)

-------------------------------------------------------------------
(*夢1)
  私の犬は傷ついた。
 それは切り傷に違いない。というのは、私にもそれがあるからだ。
 (*ラヴィが家から逃げ去ったので、一人の男に)
 「ラヴィはどっちの道へ走っていきましたか」と私が尋ねる(と)..
  でっかい警官が私の犬を撃ち、救急車で運び去ってしまった、という。
 「それは私の犬です」と言ったが、私の犬には会わせてもらえなかった。

--------------------------------------------------------------------

(彼女はしばしば、この犬と自分とを同一視していた。)..
夢では、犬が撃たれ運び去られていくとき、
彼女の、その犬は私のものだと叫んでいるのを官憲は無視している
―これは「白人の負担」を高圧的に解放しようとする当局者の姿を
生き生きと描いている。
彼らは、マーシデスの気持ないし彼女の権利といったものに
なんら尊敬といったものをはらっていない。

彼女が夢のなかで反省し創造するこうした状況は、
これから生まれ出ようとする個人的な自尊心を破壊するのに十分なものになる。
彼女が、自分の傷ついた犬のもとに赴こうとしても
―あるいは彼女自身助かろうとして何をやっても―役に立たないのである。
所詮世の中とはこのようなものなのである。

-------------------------------------------------------------
(*夢2)
  ラヴィが再び走り去った。
 私は金切り声をあげて、あとを追った。私は男からラヴィを救った。
 そのため私は、その男にごちそうする義務を負った。
 私は彼を晩餐に招待した。彼は寄ってきていやらしい態度を示した。
 わたしは彼を蹴ろうとする。
 しかし私は背中をどんと突かれた。 
 蹴ろうとするたび、彼のほうへ押されているように思えた。
 わたしは振り返ってみた。
 わかったことは、
 わたしの母が、私を彼のほうへ押していたのである。

---------------------------------------------------------------
   
第二の夢では、それ(*夢の内容)が、
治療者である私にたいする彼女の態度をあらわしているものかどうか、マーシデスに尋ねねばならなかった。
―私は犬を撃った。(あるいは彼女を。彼女は犬と自分を同一視していたからである)
 しかも私は、彼女の気持にぜんぜん敬意を払っていない。
 さらに私は、彼女にとっては何らかの負い目のある、しかもいやらしく言い寄ってくる男なのである。

つまり、彼女は、
男性-とりわけ白人-との一切の関係を、権力闘争と見ているのではないだろうか。
そこでは、男性たちは勝利者であり、彼女は無力な犠牲者である。
 その「私は単なる召使いにすぎない」という態度....
彼女はラピィを男性から救い、彼女はその男性に《治療》(treat=ごちそう の意)してやらねばならぬはめになっている。

他のものは一切の権利を持っており、自分たちには何の権利もない
という事実を受け容れることを強いられるこうした人々の中には
奇妙な「不公平の論理」が存在する。

彼女はアプリオリに、契約書でとりきめられており、
彼女自身を救うことでさえ、その男に対し何らかの返礼を要求される行為となるのである。
与えることの一形態として男性が望むもので彼女が持っている一つの通貨は、セックスである。
これは男たちが報酬として要求するとこの搾取である。
 この場合、支払は、まず第一に、彼女自身の所有物であるべきであったものに限るし、
もし彼女が「ダメ」と言い、
もし彼女が自分のものであるところのものを得ようとするなら、
彼女は世界から何かを持ち去っていることになる。

  (*拒否することで、泥棒にされてしまう という“奇妙”な“不公平の論理”)



この夢のなかで何より重要なことは、彼女の母親の役割である。
彼女(*母親)は、男に対し少女を押しつけているのである。..
母親は進行していることを知っている―売春について知っているだけではなく―
積極的にそれをそそのかしているのである。



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投稿 by kusamura on Fri May 22, 2015 6:54 am

 1-怒りの喪失Ⅱ *《妊娠-母親との葛藤―怒りの奪還》



 治療を始めて間もなく、彼女は、夫によって妊娠した。..

2週間ごとの報告にやってきて彼女のいうには、
膣に出血が始まった――これは彼女の判断だと、流産を予告する症候であると言う。

彼女はまた夢を報告した。
彼女の母親、それにさほど頻繁ではないが彼女の父親ないし他の人物が、
彼女を攻撃して殺そうとするような夢である。

 私の父親は、私を強打して、赤ん坊ができないようにするのであった。
 父は私が赤ん坊をつくることに怒り狂った。私の夫は私を助けに来てはくれなかった。


当初、私は、若い婦人が、彼女を暗殺しようとするもの
(assassins)に対して感じたに違いない
怒りを引き出そうとした。
やがてはっきりしてきたことは、彼女は、
彼女を殺そうと計画していた母親(あるいは継父その他の者)に対する
意識的な怒りを 全然ふるい起こすことができなかったということである。

夢をてがかりに、私は次のようなことを仮定した。
彼女が絶えず流産を繰り返していることの背後には、
母親との間に何か悶着があったということであり、
もし彼女に赤ん坊ができるようなことにでもなったら、
母親(ないし継父)が自分を殺すのではないか、と(彼女は)ひそかに感じているのではないか
という仮定である。..

(*やがて)われわれの直面したのは、自発的な堕胎の気配である。
何らかの激怒が表明されねばならなかった。私は全く意識せずに、
彼女の怒りの代わりに「私の」激怒を表明しようと決心した。

(*彼女の出血と夢のたびに)私は、時々他の人物をつけ加えながら、
彼女の母親を攻撃した。
―こうしたいまいましい人物は、赤ん坊を儲けようとする彼女の殺害を試みることで、
  なにを意味しようとしていたのか。
―その意地悪女(bitich=雌)である母親は、売春について一部始終を知っていたに違いない。
 しかも、夢の中でと同様、彼女を売春に追い込んでいたのである。
―彼女
(*母親)は絶えず、その夫(*継父)を引きとどめておくため、
 夫
(*継父)への忠義だてからマーシデスを犠牲にしていたのである―あるいは何か
 彼女を喰いものにしようとの他のよこしまな理由があったかもしれない。
―結局マーシデスは、自分の最善をつくしてあらゆる人に奉仕し、
 性的搾取に従うことさえもしたのである。
―こうした人物が、彼女(マーシデス)が望んでいる一つのこと、
 赤ん坊をもちたいという希望を妨げる力になっているのである。


私は、この少女が敢えて自分自身で表明することのなかった怒りをぶちまける
吐け口を与えてきた。
 はじめ、彼女は黙って座っており、私が怒りを表明すると いささか驚きの色を示していた。
 しかし出血は止まっていた。
彼女に流産の気配が出、こうした夢を見るようなときには
いつでも私は、攻撃の姿勢にうつり、
当人の感じ得ないあるいは敢えて感じることのなかった攻撃を表明したのである。

三,四ヶ月後、彼女は夢の中で自分自身の攻撃性を感じ始め、
攻撃に対する自分自身の怒りを表明しはじめる。それはあたかも、
彼女が、私から怒りの投影を引き継いだかのごとくであった。


 私はある婦人と戦っていた。私は麻痺させられていた。
 私の声が、私から去って行きつつあった。私は自分の感情を圧えられなくなっていた。
 私の父親(*継父)は私を平和にしておいてはくれなかった。
 私は母親や父親(*継父)に向かって叫んだ。…
 母親に向かって私は叫んだ。
 「もしあなたが私を助けるつもりなら助けて下さい。
  もしそうでないないのだったら、私を一人にしておいて下さい。」



私の怒りは彼女にとって、最初の自己-確認(self-affirmation)であった。
彼女は、親たちを別々に呼んでいる
―しかもはっきりと、自分に電話をかけてくれるな、
あるいは、赤ん坊が生まれるまでどんな形にしろ自分と接触をとってくれるな、
と述べた。この行為は私を驚かした―私はとくにそれを期待していたわけではなかったので―
しかし私にはそれが嬉しかった。
私はそれを、自らを主張し、自らの権利を要求できるという、
マーシデスの新しく発見された能力として確認した。

 出産予定を一月後に控えたころ、子を産むことについて、はっきり自信がわいてきた。..
 その時点で、継父についての夢が出てきたとき
―「彼は腹を立てて、ナイフを手にした」―
(*しかし)
 彼女はほとんど恐れていない様子がありありとうかがえた。
それだからどうなの」(So what?)というコトバが、彼女の述べた全てであった。

赤ん坊は予定日に無事生まれた。
マーシデスと彼女の夫のよろこびようは大へんなものであった。 
..

(*この時私は)彼女自身が怒れるようになりうる「習慣パターン」を確立するよう
マーシデスを訓練しているのではなかった。そうではなくて、
われわれは本気で行動していたのである―彼女の中に胎児を維持するために。

それは、こうしたコトバの通常の意味での単なる「カタルシス」あるいは除反応ではなかった。
そこに賭けられたものは、
生命そのもの―彼女の赤ん坊の生命であった。



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投稿 by kusamura on Fri May 22, 2015 6:58 am

1-怒りの喪失 Ⅲ《妊娠-母親との葛藤-怒りの奪還 2


 この婦人は何に向かって戦いをいどんでいるのか。..

もし私がその十分に強力な意味でその動詞を使えるとすれば、
彼女は自分の「存在する」
(to be)権利のために戦っているのである。..
パスカルの言う意味で、全宇宙に対して存在する権利に対して戦っているのである。

存在する権利や自らの生存競争
(struggle for one's own existence)―という
これらの語句は貧弱なものであるが、
しかし、それらはただわれわれがもっている唯一の権利である。
 その戦いの場はナイフと握りこぶしでもって描かれており、
 それはマーシデスがそれによって育てられた街のコトバである。

マーシデスは、精神分析を受ける通常の患者と違い、
自分の夢は、分離した世界の一部であると仮定することができた。
これは、何人かの患者にみられる「呪術の世界」のようである。
彼女はそのとき、あたかも現実に怒りを抱いていないかのように、一途に前進できたのである。

この怒りを意識の上にのぼせるということは、
彼女が対処することのできない恐ろしいことであった。
それは、彼女の母親が彼女にとって不倶戴天の敵であることを認めることを意味する。..
彼女の実父が出ていったときには、家族の者に衣食を提供したのはこの母親であった。
したがって彼女は、自分自身にこうした敵意を認めさせることはできなかったのである。

私は、私の激怒に対し吐け口を与えることで、
彼女が彼女自身の権利を持った人間であるという私の信念を生きぬいていたのである。
私はそれについて言う必要はなかった。というのは、
彼女は、私の行為からそれを理解できたからである。


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Re: 第四章 黒人と無気力-ある売春婦の生活

投稿 by kusamura on Fri May 22, 2015 7:05 am



2-再生儀礼


お産後六ヶ月..彼女の
母親についての憎悪は続いていた ―しかし、
その憎悪は圧倒的なものではなく、それは、
もはや症候を生みだすものでもなかった。

しかしながらマーシデスは、息子を中心に、自分の全生涯を建てようとした。..

(*マーシデスが)私の診療所へ息子を連れてきた。
当時二歳であったその少年は、母親にこう言った。
「座んなさい。あそこではなく、ここに。この別の椅子に」
(彼女はそれを素直に実行した)。,,,
「彼はその保育園では非常にできるのです」「私の息子は特別です」
「こんなすばらしい子どもを持ててわたしたちは何と幸運なことでしょう」

こうしたコメントは、総体的に真実だという事実にはおかまいなく、
息子への服従を示しており、事実、このことは彼女が
もともと抱えている問題の一部であった。
..

重要な点は、彼女がこどもを讃めたことではなかった
..
彼女は、自分自身の一個の人間として自己主張する代わりに、子どもをほめたのである。
彼女は、ほうとうなら自分自身が身につけるべき力をまぬかれるために、
息子に力を与えていたのである。
..
息子を通して生きることは、自分自身の問題をのがれる立派な方法であり、
また後ほどこの息子を精神療法の椅子に座らせることになるのは必定である。
..

しかし彼女にとっては
(*ロロ・メイの指摘は)まだ現実的ではなかった。

(*彼女に変化をもたらした歯医者での経験
彼女は、歯医者に赴いたとき
..麻酔用のガスを..不快なものではない信じ込んでいた。
予期に反して、彼女はそのガスのもとで恐怖を覚え
..このまま死ぬのではないかと思った。
死の運命を感じたとき、彼女はひとりごとを繰り返した。

死は生きているもののためにあり、生はまさに死に瀕したもののためにある
彼女はそこに寄りかかりながら、静かに涙ぐんでいた。
..
二日後、彼女が私の診療所にやって来たとき、彼女はなお泣いていた。
..
死を予期する場に立たされて、はじめて生命の貴重なものあることを理解できたのである。

 そのとき以来、全体として彼女の生活の中にも、また彼女の精神療法の面でも、
急激な変化が起こっている。
..
いまや生きるか死ぬかが重要になってきた。
生存は
..単に機械的に流れる年月ではなくなった。

このとき以来、彼女は、本人の言うように、「ひたすら幸福感」にひたっていた。
時々起こる夫とのいさかいの中でも、彼女は以前圧倒されたほどには圧倒されなかった。

麻酔下での謎めいたひとりごと
「死は生きているもののためにあり、生は まさに死に瀕したもののためにある」
の意味は何だったのか。

この語句のいわんとすることの一つは,
死は生のため
(for)にあり、生は死のためにある、ということである。即ち、
人は死ぬことによって、生まれ変わるのである。
..
その再生体験は、彼女が再び生まれ変わるために
死ぬという競争に自分が加わる体験になるのである
..
―それはまた、復活の神話と儀礼である―即ち、
再び生き返らせる
(raise)ために死ぬのである。

これはしばしば、自分の自我を主張する権利を体験する前奏曲 として 出てくるのである。



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Re: 第四章 黒人と無気力-ある売春婦の生活

投稿 by kusamura on Fri May 22, 2015 7:10 am



  3 生命破壊的かつ生命付与的なものとしての暴力 1


マーシデスの生存にとって暴力のはたす役割..それは何であろうか。

彼女の暴力のほとんどは自己防衛的なものである。
彼女は、ただ殺されるのを避けるため、夢の中で
握りこぶしやナイフでもって戦うのである。

暴力の中には、一切の合理的機能にバイパスをつけるため
あらゆる方向に噴出する傾向がある。

(*彼女の夢)
 私はパーシー(夫)かあるいは兄に助けを求めていた。
 私は助けてもらえなかった。 私の彼への頼み方はこれで十分なはずだ。
 私は怒りを呼び起こし、しかも夫をぶったように感じた。 
 われわれの犬リヴィは家にいた。そして床一面に排泄物(feces)をまいた。
 私はそれを掃除していた。たぶん私はパーシーに助けを求めていたのである。
 

「その排泄物(shit)が自分のものであること」や「何を自分が行ったか」などについては
彼女はよく気づいていた。しかし、
夢は 彼女が私から呪術的な援助を期待している旨のメッセージを伝えていた
―「私は彼に頼んだのだから、多分これで十分であろう」。
これは無力感に圧倒されている人が普通とるところの防衛策である。
なぜなら明らかにこうした人びとは、そうした力を持っていないからである。

無力なことを行なうのに失敗すると、真実にされたものを満たすには、しばしば
呪術的儀礼が必要になってくる。
 呪術への依存ということは、何世紀にもわたり黒人や植民地人、少数民の抑圧を通して
過去まで遡る――つまり、
常時一定の脅迫にさらし、時折リンチを加えることによって、
彼らを受動的で従順で無力な者にすることができ、
さらに、呪術への依存を続けさせることができる。

ある人間が奴隷の場合のように、社会的にも
あるいは精神的にも一人立ちできなくなったとき、..
もし人が公然と自己を主張することができないなら、人はそれを暗々裏に行うであろう。
無力な人にとっては、呪術、つまり秘められたオカルト的な力を絶対に欠かすわけにはゆかない。
呪術の拡がりやオカルトへの依存症は、
過渡期に生きるわれわれに広く行きわたっている無力感の一症候である。


(原註)この体験は、全く黒人達にだけとは限らない。それは普遍的なものである。
    あらゆる階級の人びとがインポテンツと意気消沈を感じているとき
    占星術やオカルトに夢中になる。
    われわれの呪術的な傾向はユートピアを握るということの中に示されている。
    
    十分逆説的ではあるが,,,われわれの科学に対する依頼の仕方には、
    呪術の要素がある。
    オペラント条件付け(反応が自発的な条件付け)への今日の興味は、
    呪術的な要素がある。つまり
    「われわれ全員が条件づけをする者によってコントロールされるとき、
    われわれは立派にやってゆくであろう」
    

しかし呪術が唯一の症候ではない。マーシデスもまた
彼女自身の身内の恥をさらけだしてしまう――彼女の暴力は自分自身に向けられるのである。...
攻撃への衝動や抑圧された怒りは内側に向かうとともに、自分自身に反するものになってくる。
復讐や敵意のこもった動揺(surge)は、理性にバイパス(*迂回路)をつけ、
筋肉にその出口を見いだすのである。...

この復讐への衝動は、それを噴出させる対象が身近に何もないなら、それは
本人の自我に向けて噴出する。
暴力の方向やねらいは二次的なものであり、
ただその噴出だけがその瞬間には重要である。
ここで、抑圧された攻撃への傾向が暴力に変形されるのである。

厳密に言うと、暴力の対象はなんでもよいのである。


                                                                     

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投稿 by kusamura on Fri May 22, 2015 7:17 am



 3 生命破壊的かつ生命付与的なものとしての暴力 
2

(*
 私は全ての人から追跡されていた。
 私は、その人たちを殺し傷つけなければならず、ある方法で
 彼らを押しとどめねばならない。
 私の息子さえ、そうした人間の一人なのでした。,,,
 何かをしなければ,,,向こうの方で私を傷つけてくる。
 私は息子をつねった。彼にとってはそれで十分だった。しかし
 私は他の全ての人をなぐらねばならなかった。

 ある男が車の中に入り込もうとしていた。つぎの場面では
 看護婦のいる机のある場所で仕事をしていた。私は机の下に潜り込み、
 ナイフを選んだ。男が中をのぞきこんで私に気づいた。
 私は..ナイフを手にした。私はいまや
 自分の息子と祖母を相手どって戦っていた。そのことは私を悩まさなかった。
 私は彼らのナイフを受け流していた。それから、私の戦っている相手は
 婦人になってきた。彼女は私を傷つけようとしていた。


彼女
(*マーシデス)は子どものころ、この祖母を世話したことがあり、
心から情愛を抱いている人物であった。
彼女は、祖母だけではなく、息子とも戦っていた。 
このあらゆる方向へ攻撃を加えるやりかたは、非合理的な暴力の
典型的なあらわれに思われる。

マーシデスが戦いを挑んでいるこれらの人びとが共通に持っているもの,,,
彼らこそ彼女自身が従属してきた人物全てである。
祖母や息子のように良い理由であるにせよ、あるいは
見かけ上の母親のように悪しき理由であるにせよ、かれらは
彼女自身がそこに埋没してしまう人物をあらわしている。この点で、その人たちは
彼女自身の自律性を護るため、彼女から挑まれる戦いを受けて立たねばならなかった。

これは ゲゼル (A L. Gezell)が
「対抗-意志」と呼ぶものと平行関係にある。それは子どもが
もっとも依存している人間に、全く正反対の立場に立って、自己主張することである。
このように、生命破壊的暴力はまた生命付与的な暴力になる。これらは
個人の自主独立、責任、自由、といったものの源泉としてからみ合っている。


(*夢の中で)「のぞき込んでいる人間」とは私=治療者であるかもしれないのに
なぜ彼女は、自分自身の自由を主張しながら、私と戦ってはいけないのか。
これは、治療中のすべての人間が置かれている避けがたいまでに曖昧な状態である。
彼らは、その線に沿って、ある場所で治療者と戦わねばならない。..
このことが起こるのは、援助を求めてくるに当たって、彼らが、一時的に
自分の持っているオートノミー
(*主体性)の何がしかを放棄しなければならなかったからであり、
また一部は、援助を求めねばならぬという屈辱
(humiliation)のためであり、
さらに一部は、治療者が神になるほどの過度な転移に対する均衡上の理由による。

かくてそこには、まさに自己破壊的な暴力における自己主張があるのである。
究極的には、その確認は、もし自分で選ぶなら
自らの手で死ぬ権利があることを示す、という形で表現される。

(アメリカで見られる傾向のように)
もしわれわれが一切の暴力を即座に非難し、
人間から暴力の可能性をも根絶するならば、われわれは
人間から完全な人間性にとって不可欠の要素を取り去ってしまうことになる。

自尊心のある人間にとって、暴力というものはつねに究極的な可能性である
―しかも暴力は、それが抑圧されるよりも、むしろ許されているほうが
暴力に訴えてことを決する亊が、よりすくなくなってゆくものである。

自由人であれば、
精神および身体両面に関して、暴君ないし独裁権によって
他の一切の道が否定されたとき、
暴力というものは最終的な吐け口となって残るのである。


                                             

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Re: 第四章 黒人と無気力-ある売春婦の生活

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