5. LO野 『もうひとつの視覚』 グッデイル&ミルナー
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5. LO野 『もうひとつの視覚』 グッデイル&ミルナー
『もうひとつの視覚』メルヴィン・グッデイル/デイヴィッド・ミルナー 訳 鈴木光太郎・工藤信雄 新曜社(2008年 原著2004)
(導入部要約)
スコットランド人女性DF(ディー・フレッチャー)は、1988年、自宅プロパンガスの換気不備で漏れ出した一酸化炭素により、浴室で昏睡状態に陥った。
一命はとりとめたが、回復後なにも見えなくなり、皮質盲(後頭部(低次視覚野)傷害により視覚表象が全て失われる)と診断された。
幸い視覚能力は回復したが、物の形が認識できなくなっていた(色覚/質感認識は正常)。
丸と四角の見分けもつかず、たとえばコップの形も大きさもわからなかった。
にも関わらずDFは、形の違うものを一度で正確に掴むこともでき、足元に置かれた高さの異なる障害物を足をあげて正確に避けることができた
(が、障害物の形も高さも答えることはできなかった)。
研究者の中には彼女の視覚障害を精神傷害、または詐病と疑う者までいた。
著者のグッデイル&ミルナーは彼女の視覚障害の原因が、「LO野」の損傷にあることを解明しネイチャーに発表しました。
この本は「LO野」損傷をガイドとして二つの視覚経路に関する認識を深めていくという流れになっています。
1. LO野を含む腹側経路について。(同書第5章「経路のなかはどうなっているか?」)※太字は引用者
(*DFの「視覚形態失認」の原因)
「高い空間分解能を持つMRIを用いた最近の撮影によって,,物体の知覚にもっとも関与する両側の腹側経路(LO野)の損傷が著しいことが明らかになった。」
「線画を意味のない断片としてではなく特定の物体の表現として見ることを可能にする決定的な領域,,LO野が機能しないと、
構成部分のたんなる集合と全体とを区別する構造(あるいは「ゲシュタルト」)を見る能力が損なわれるのである。」
「脳機能画像研究によって、顔と場所の知覚にそれぞれ専門化した領野が存在することが確認されている。たとえばMITのナンシー・カンウィッシャーは
「顔領野」を確認し、ここを紡錘状回 顔領域(fusiform face area:FFA)」と名づけた。」
「もうひとつの領域(海馬傍回 場所領域,Parahippocampal place area:PPA)は、建物や光景の写真で活性化する」
「日用品(たとえば、果物、カップ、テレビ、花瓶など)と関係する領野も確認されている。
外側後頭領域(lateral occipital area:LO野)と一般に呼ばれるこの領野は、完全な物体の写真と、部分をばらばらに配置した写真を観察してるときの脳活動を
fMRIで撮影し、この二つの画像を引き算することで明らかにされる」
「色や顔、場所に関係した領野は、後頭葉と側頭葉の境い目付近の底部に隣り合うように位置し,,
海馬傍回 紡錘状回(後頭側頭回) 場所・顔・物体領域
これよりは外側面にあるLO野と一緒にひとつの領域を成している」「異なる領域間でどの程度重複があるかは議論の余地があるにしても、それぞれが独立している」
「すなわち、私たちの知覚体験は、汎用的な物体認識システムによって生み出されるのではなく、一連のなかば独立した視覚モジュールによって生み出されるのである。」
(p157)「両眼視野闘争の際の視覚的意識の研究」
「(*ナンシー・)カンウィッシャーは、フランク・トンらとともに、一方の眼には顔の写真、もう一方の眼には建物の写真を同時に提示し、その際の脳の活動を記録した。」
「被験者にはあるときは建物の写真が、またあるときには顔の写真が見えたが、二つが同時に見えることはなかった。」
「顔が見えていると報告(*レバー押し)したときには、FFAがよく活動し、建物が見えていると報告したときには、PPAがよく活動していた。」
「FFAとPPAの活動は、被験者が意識的に知覚しているものを反映しており、網膜上に投影されているものを反映しているわけではなかった。
ダラム大学の神経科学者、ティム・アンドリュースも,,「顔と花瓶(*ルビンの壺) 」の多義図形を用いて、同じような問題を検討している。」
「両眼視野闘争では競合する像の知覚が生じるように、この多義図形でも、見えるものがその時々で変化する。(*黒い花瓶か白い二つの横顔)
「花瓶のような物体が、FFAではなく、腹側経路のもうひとつの領域である外側後頭領域(LO野)」を活性化させることを利用し」「FFAの活動と比較した。」
「結果は明白だった。知覚の変化は、FFAとLO野の間の活動の変化と強い相関があった。つまり、被験者は同じ画面を見ているのに、
脳の活動はFFAとLO野の間で切り替わり、それと同時に、「見えるもの」も変化したのである。」
「一言で言えば、腹側経路の神経活動と視覚的意識」との間には強い相関関係がある」(p150~)
「おそらく、意識に達しない視覚情報も処理され、腹側経路の高次の分析を受けている。
いわゆる無意識的知覚(主観的には見えない閾下刺激が行動に影響をおよぼしうる),,は確かに生じるが、
それは、背側経路によってではなく、腹側経路の活動によって引き起こされる」
「視覚刺激によって誘発された背側経路の活動,,も視覚的な意識を生じさせないが,,それが無意識的知覚に関係しているということにはならない。
無意識的知覚ということばは、そのような知覚処理が原理的には意識的なものでありえるということを意味している。」(下線-原文では傍点)
2. 背側経路
「DFは、知覚能力に著しい障害があるにもかかわらず、視覚運動制御が保持されているという際立った強力な症例である。」
運動領野(背側経路)関連の記述(P88~
「顔、色、場所を処理する場所は、脳の底部の互いに近いところにある。,,
「運動領野」はそこから離れた側頭葉の外側面にあり、LO野のちょうど上あたりに位置する。
この領野は、セミール・ゼキによって三十年ほど前に最初のサルで確認され、彼はこの領野がV1から直接投射を受けていることを示した。」
「彼はV5と命名したが、通常はMT野と呼ばれている」
「運動盲として知られる特殊な傷害..では、動きを見る患者の能力が失われる。運動盲の患者は、
静止した物体なら完璧に見ることができるが、比較的速く動いている物体がすぐに見えなくなる」
「腹側経路の場合と同様、ヒトには独立し専門化した背側経路のモジュールが存在する」
「現在、ヒトの背側経路は、頭頂間溝(intraparietal sulcus: IPS)と呼ばれる長い溝のなかにほぼ位置することがわかっている。」
「ものに手を伸ばす動作、サッケード、ものをつかむ動作それぞれに専門化した領域がこの溝のなかに独立して存在し、
溝に沿って後部から前部末端にかけてこの順に並んでいる」
クリックで単独拡大(右クリック[新しいウィンドで開く]推奨) 図は、頭頂間溝を上下に開いた態でPRR,LIP,AIP,(及びVIP)を示している
(p90~)
「さまざまな位置に光点を提示し、健常者に光点に眼を向けるか、指差しを行うように求めたとしよう。
指さしを行わなければならないとき、これらのうち第一の領域(いわゆる頭頂葉手伸ばし領域、parietal reach region:PRR)が活性化する。」
「手ではなく眼を動かさなければならないときには、すぐ隣の領域(外側頭頂間溝領域、latetal intraparietal area(*LIP野))が活性化する。」
(「最近の研究では,,この領野は、眼球を動かさないときでも、視覚的光景のなかにある物体から別の物体への注意を切り替える上で重要な役割を果たしているようだ(p145)」)
「目標物にをつかむとき,,三つの領域の最前部(前部頭頂間溝領域、anterior intraparietal:AIP野)のみが実質的に活性化の増加を示す。」
「3つの領野-手伸ばし、サッケード(*眼球運動)、つかむ動作に関係した領野-」などの
「背側経路モジュールは,,系統発生的に古い低次の脳部位にある感覚運動制御器官(橋、上丘、小脳など)とも連絡し,,
眼球や四肢の基本的運動を生み出す役目を担っており、正確な運動出力の値を決める。」(p89~)
「より新しい頭頂・前頭モジュールは、高次の「統括」システムを構成していると考えることもできる。このシステムのおかげで、脳幹のより古い、
より「反射的」な視覚運動ネットワークを柔軟に制御できるのだ。」
(導入部要約)
スコットランド人女性DF(ディー・フレッチャー)は、1988年、自宅プロパンガスの換気不備で漏れ出した一酸化炭素により、浴室で昏睡状態に陥った。
一命はとりとめたが、回復後なにも見えなくなり、皮質盲(後頭部(低次視覚野)傷害により視覚表象が全て失われる)と診断された。
幸い視覚能力は回復したが、物の形が認識できなくなっていた(色覚/質感認識は正常)。
丸と四角の見分けもつかず、たとえばコップの形も大きさもわからなかった。
にも関わらずDFは、形の違うものを一度で正確に掴むこともでき、足元に置かれた高さの異なる障害物を足をあげて正確に避けることができた
(が、障害物の形も高さも答えることはできなかった)。
研究者の中には彼女の視覚障害を精神傷害、または詐病と疑う者までいた。
著者のグッデイル&ミルナーは彼女の視覚障害の原因が、「LO野」の損傷にあることを解明しネイチャーに発表しました。
この本は「LO野」損傷をガイドとして二つの視覚経路に関する認識を深めていくという流れになっています。
1. LO野を含む腹側経路について。(同書第5章「経路のなかはどうなっているか?」)※太字は引用者
(*DFの「視覚形態失認」の原因)
「高い空間分解能を持つMRIを用いた最近の撮影によって,,物体の知覚にもっとも関与する両側の腹側経路(LO野)の損傷が著しいことが明らかになった。」
「線画を意味のない断片としてではなく特定の物体の表現として見ることを可能にする決定的な領域,,LO野が機能しないと、
構成部分のたんなる集合と全体とを区別する構造(あるいは「ゲシュタルト」)を見る能力が損なわれるのである。」
「脳機能画像研究によって、顔と場所の知覚にそれぞれ専門化した領野が存在することが確認されている。たとえばMITのナンシー・カンウィッシャーは
「顔領野」を確認し、ここを紡錘状回 顔領域(fusiform face area:FFA)」と名づけた。」
「もうひとつの領域(海馬傍回 場所領域,Parahippocampal place area:PPA)は、建物や光景の写真で活性化する」
「日用品(たとえば、果物、カップ、テレビ、花瓶など)と関係する領野も確認されている。
外側後頭領域(lateral occipital area:LO野)と一般に呼ばれるこの領野は、完全な物体の写真と、部分をばらばらに配置した写真を観察してるときの脳活動を
fMRIで撮影し、この二つの画像を引き算することで明らかにされる」
「色や顔、場所に関係した領野は、後頭葉と側頭葉の境い目付近の底部に隣り合うように位置し,,
海馬傍回 紡錘状回(後頭側頭回) 場所・顔・物体領域
これよりは外側面にあるLO野と一緒にひとつの領域を成している」「異なる領域間でどの程度重複があるかは議論の余地があるにしても、それぞれが独立している」
「すなわち、私たちの知覚体験は、汎用的な物体認識システムによって生み出されるのではなく、一連のなかば独立した視覚モジュールによって生み出されるのである。」
(p157)「両眼視野闘争の際の視覚的意識の研究」
「(*ナンシー・)カンウィッシャーは、フランク・トンらとともに、一方の眼には顔の写真、もう一方の眼には建物の写真を同時に提示し、その際の脳の活動を記録した。」
「被験者にはあるときは建物の写真が、またあるときには顔の写真が見えたが、二つが同時に見えることはなかった。」
「顔が見えていると報告(*レバー押し)したときには、FFAがよく活動し、建物が見えていると報告したときには、PPAがよく活動していた。」
「FFAとPPAの活動は、被験者が意識的に知覚しているものを反映しており、網膜上に投影されているものを反映しているわけではなかった。
ダラム大学の神経科学者、ティム・アンドリュースも,,「顔と花瓶(*ルビンの壺) 」の多義図形を用いて、同じような問題を検討している。」
「両眼視野闘争では競合する像の知覚が生じるように、この多義図形でも、見えるものがその時々で変化する。(*黒い花瓶か白い二つの横顔)
「花瓶のような物体が、FFAではなく、腹側経路のもうひとつの領域である外側後頭領域(LO野)」を活性化させることを利用し」「FFAの活動と比較した。」
「結果は明白だった。知覚の変化は、FFAとLO野の間の活動の変化と強い相関があった。つまり、被験者は同じ画面を見ているのに、
脳の活動はFFAとLO野の間で切り替わり、それと同時に、「見えるもの」も変化したのである。」
「一言で言えば、腹側経路の神経活動と視覚的意識」との間には強い相関関係がある」(p150~)
「おそらく、意識に達しない視覚情報も処理され、腹側経路の高次の分析を受けている。
いわゆる無意識的知覚(主観的には見えない閾下刺激が行動に影響をおよぼしうる),,は確かに生じるが、
それは、背側経路によってではなく、腹側経路の活動によって引き起こされる」
「視覚刺激によって誘発された背側経路の活動,,も視覚的な意識を生じさせないが,,それが無意識的知覚に関係しているということにはならない。
無意識的知覚ということばは、そのような知覚処理が原理的には意識的なものでありえるということを意味している。」(下線-原文では傍点)
2. 背側経路
「DFは、知覚能力に著しい障害があるにもかかわらず、視覚運動制御が保持されているという際立った強力な症例である。」
運動領野(背側経路)関連の記述(P88~
「顔、色、場所を処理する場所は、脳の底部の互いに近いところにある。,,
「運動領野」はそこから離れた側頭葉の外側面にあり、LO野のちょうど上あたりに位置する。
この領野は、セミール・ゼキによって三十年ほど前に最初のサルで確認され、彼はこの領野がV1から直接投射を受けていることを示した。」
「彼はV5と命名したが、通常はMT野と呼ばれている」
「運動盲として知られる特殊な傷害..では、動きを見る患者の能力が失われる。運動盲の患者は、
静止した物体なら完璧に見ることができるが、比較的速く動いている物体がすぐに見えなくなる」
「腹側経路の場合と同様、ヒトには独立し専門化した背側経路のモジュールが存在する」
「現在、ヒトの背側経路は、頭頂間溝(intraparietal sulcus: IPS)と呼ばれる長い溝のなかにほぼ位置することがわかっている。」
「ものに手を伸ばす動作、サッケード、ものをつかむ動作それぞれに専門化した領域がこの溝のなかに独立して存在し、
溝に沿って後部から前部末端にかけてこの順に並んでいる」
クリックで単独拡大(右クリック[新しいウィンドで開く]推奨) 図は、頭頂間溝を上下に開いた態でPRR,LIP,AIP,(及びVIP)を示している
(p90~)
「さまざまな位置に光点を提示し、健常者に光点に眼を向けるか、指差しを行うように求めたとしよう。
指さしを行わなければならないとき、これらのうち第一の領域(いわゆる頭頂葉手伸ばし領域、parietal reach region:PRR)が活性化する。」
「手ではなく眼を動かさなければならないときには、すぐ隣の領域(外側頭頂間溝領域、latetal intraparietal area(*LIP野))が活性化する。」
(「最近の研究では,,この領野は、眼球を動かさないときでも、視覚的光景のなかにある物体から別の物体への注意を切り替える上で重要な役割を果たしているようだ(p145)」)
「目標物にをつかむとき,,三つの領域の最前部(前部頭頂間溝領域、anterior intraparietal:AIP野)のみが実質的に活性化の増加を示す。」
「3つの領野-手伸ばし、サッケード(*眼球運動)、つかむ動作に関係した領野-」などの
「背側経路モジュールは,,系統発生的に古い低次の脳部位にある感覚運動制御器官(橋、上丘、小脳など)とも連絡し,,
眼球や四肢の基本的運動を生み出す役目を担っており、正確な運動出力の値を決める。」(p89~)
「より新しい頭頂・前頭モジュールは、高次の「統括」システムを構成していると考えることもできる。このシステムのおかげで、脳幹のより古い、
より「反射的」な視覚運動ネットワークを柔軟に制御できるのだ。」
最終編集者 kusamura [ Sat May 23, 2015 4:47 am ], 編集回数 1 回
<LO野>(2) 『もうひとつの視覚』 グッデイル&ミルナー
3. 腹側経路と背側経路に関する著者らの考え。
視覚には 「知覚のための視覚」 と 「行為のための視覚」 があり(p66-77)
「知覚と行為では、視覚情報処理がまったく異なる。それらは時間の点でも異なっている。
行為の場合にはきわめて短時間だが、知覚の場合には時間の制約はない。
二つのシステムは、用いる値の点でも異なる。 知覚は物体にもとづいた相対的なものだが、行為は観察者の視点に依存し、実際の計測値をもちいる。
知覚システムは知識にもとづいてトップダウン的に働くが、行為システムは、光学的配列をもとに、ボトムアップ的なやり方で自動的に働く。」(p133)
「背側経路の活動が意識されることはないので、「知覚」という用語を用いるのは適切ではない。
背側経路は、外界の視覚的表象を与えるという仕事をしているわけではない。しているのは、視覚情報を行為に直接変換することだ。」(p160~)
「視覚は単一のものではなく、私たちの体験する視覚現象も視覚脳の働きのひとつの側面しか反映していない。
視覚が私たちのために行うことの多くは、体験の外にある。
実際、私たちの行為の大半は、本質的に自動的なシステムによって制御されており、まったく意識にのぼることのない視覚的計算を用いている。」
「確かに、脳の構造の点では、二つの経路が相互に連絡していることを明確に示す証拠がある。しかし、
腹側経路が、背側経路にも理解できるように意図した目標物の位置を座標系内でどのように表示しているのか」
結局「腹側経路は光景にもとづく座標系で機能し、観察者を基準にするのではなく、外界にあるさまざまな物体を基準にして、
そのなかにある物体がどこにあるかを知っている。
しかし、ものとつかむといった行為を制御するためには、背側経路は、ほかの物体との位置関係によるのではなく、
手に対してその物体がどこにあるのかを、」「ボールを蹴るといった行為なら、背側経路は足に対してボールがどこにあるのかを知らなければならない。
つまり、二つのシステムはまったく異なる準拠枠を用いている(実際、違う言語を話している)」(p141)
(グッデイル&ミルナーの基本思想)
「究極的には、脳が行うことはすべて行為のためである。
そうでなければ、脳は進化しなかったはずである。」「自然淘汰は行為の産物に作用するのであって、思考だけの産物に作用することはない。」(P150)
二つの経路相互の連絡についての著者らの仮説。 (p141~)
「二つのシステムに送られる情報が同一の源 ―網膜と一次視覚皮質のような初期の視覚領野― に由来するという事実を利用する」
「低次の視覚情報処理装置には、眼に映る光景の二次元の「スナップショット」が含まれている。
この情報は、二つの経路に別々に送られ、異なる目的のために使われるが、どちらの経路も実際には双方向性がある。つまり、
二つの経路の高次領域から、一次視覚皮質への逆向きの投射が多数ある」「最近の研究では、逆向きの投射のほうが通常の上行性の投射よりも数が多い」
「このことは、二つの経路が、共有する入力信号源へのこうした逆向きの投射を通して、間接的に連絡し合っていることを意味する。」
(*グッデイル&ミルナーの2004年仮説のイメージの概要だけならこれで充分だが「体外離脱」に関係する可能性があるかもしれない箇所を追加引用)(p142~)
「(逆向きに投射された)初期段階の信号は依然として網膜座標で符号化されているので、
この共通した準拠枠を用いて、腹側経路は背側経路のために目標物の位置に印をつけることができる。」
「目標物が網膜マップ上で表示されれば、背側経路が用いる必要のあるどんな座標系にでも変換することが可能になる。」
「(*ものを掴む場合)背側経路はまず、頭部を基準に眼球の位置を計算し、次に身体を基準に頭部の位置を計算して、
最後に身体を基準に手の位置を計算する。こうすれば、手に対して目標物がどこにあるのかわかる。」
「つまり背側経路は、いったん目標物の網膜上での位置がわかれば、その情報を多くのさまざまな行為を制御するのに必要な形式にいつでも変換できる。」
「最近のfMEI研究(*2004年当時)による証拠は、LIP(*頭頂間溝の真ん中あたりにある眼球運動に関連した領野)が
最新の注意の「サーチライト」をなんらかのやり方で腹側経路に送っているということを示唆している。」
著者らは、「みな推論にすぎず、かなり単純化して考えているようにみえます。
いまのところ、二つの経路がどのように連絡し合っているかについては確実なことがわかっているわけではない。」と断っています。
関連
・ DFに関連したグッデイルの最近の論文(2014) グーグル翻訳で読む限り、DFが物を把持する能力は触覚フィードバックよりも視覚フィードフォワードに依ると言ってるらしいです。
(google翻訳依存につき不確か)(著書ではフィードフォワードはボトムアップ(上行系)。逆はトップダウン=フィードバック(遠心系))
・ グッデイルの論文リスト
・ ミルナー(A. D. Milner): 患者DFに関する2012年論文 _googleのページ翻訳が不能で内容はおぼろげにしかわかりませんが、LO野の位置が示された図があります.
→(a)患者DFの脳右半球.青色で示した部分がLO野 (b) 底部から見たD.F.の大脳半球(LO野の障害が両側性であることを示す)(”横断翻訳”)(2015.05.12閲覧)
・ pooneilの脳科学論文コメント[カテゴリー別保管庫] 腹側視覚路と背側視覚路 Goodale & Milnerに触れてます
※日本語インターネットだけを見ている限り今のところ門外漢には"LOC(Lateral Occipital Complex)"とLO野(lateral occipital area)の関係が、よくわかりません。
京大系サイトではLOCを「高次物体処理領野」とし、小嶋祥三氏は京大名誉教授でもありますが「脳と心」第2章では「外側後頭複合領域」とし、
順天堂大学の北澤茂氏の資料P31では「側方後頭皮質」と訳語も一定していないように思えます。
小嶋氏のpdfにはこの本の著者Goodaleの論文も取り上げられているが、その際の表記は [LO野]ではなく[LOC]となっている。グッデイルのこの本ではLO野は腹側経路の重要な一部として位置づけられていますが、
小嶋氏は、「対象特異的脳領域」とし腹側経路から外しています。
専門家間で語彙の定義や見方の一致がまだないという事なのか、2004年頃と最近では呼び名と範囲が変更されたのか、
日本語しか読めない門外漢にはわかりません。
(偶然なのか、理由があるのか門外漢には判りませんが日本の脳関連サイトでLO野の詳細な記述を見かけることはほぼなく、wikipediaや脳科学辞典にも全く記載がないのは不思議です。
(2015年2月8日現在-サイト内検索 ヒット件数ゼロ)。
*文中に出てくるOSM(オブジェクト置き換えマスキング Object substitution masking)について。
・『注意をコントロールする脳』苧坂直行編 2013(社会脳シリーズ3)
「短時間呈示された二つの刺激が、時間的・空間的に近接する場合に、両者の間に知覚的な妨害効果が生じることをマスキングという」
「二つのアルファベット(*たとえばKの後にM)が同じ位置にそれぞれごく短時間(たとえば50㍉秒(*0.05秒)ずつ続けて呈示された場合、
どちらも明瞭に見えるかというとそうではない。後続の「M」は明瞭に知覚される一方で、先行する「K」はしばしば認識できなくなる。
この現象は、後続刺激が先行刺激の見えを時間的に遡って阻害することから、逆向きマスキングと呼ばれる。
..二つのアルファベットの間に充分な空白時間(500ミリ秒(*0.5秒)程度を挟むと、もちろん「K」も「M」もしっかり認識できる。
クラウディング(*空間または時間的に近接した妨害)は今この文章を読んでいる瞬間にも生じており、
少し上下左右に離れたところに文字があるのは分かっても、混み合い過ぎていて何の文字かは実際にそこに眼を向けないと分からない。」
**OSM(オブジェクト置き換えマスキング)は、
たとえば二つの刺激(ターゲットとその認知を妨害するマスキングオブジェクト)を並べて同時に呈示しても、
ターゲットが先に消え、マスキングオブジェクトが少し長く残存すると、ターゲットの正答率が落ちる現象をいう。
以下、同書よりLOCに関する記述。
「カールソンら(Carlson er al. 2007)は、fMRI順応(fMRI adaptetion)と呼ばれる手法を用いて、
刺激条件は同一であるにもかかわらず、OSMが生じてターゲットが報告できなかった場合には、
オブジェクト認知にかかわる脳領域の外側後頭複合体(lateral occipital complex: LOC)でターゲットが表象されていないが、
ターゲットが報告できた場合には 、LOCでターゲットが表象されていることを示した。
したがって、OSMによってターゲットに関する意識的知覚が生じないときには、
LOCにおけるターゲット表象が残存するマスク表象に置き換わっている可能性が示唆された。」(p171)
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視覚には 「知覚のための視覚」 と 「行為のための視覚」 があり(p66-77)
「知覚と行為では、視覚情報処理がまったく異なる。それらは時間の点でも異なっている。
行為の場合にはきわめて短時間だが、知覚の場合には時間の制約はない。
二つのシステムは、用いる値の点でも異なる。 知覚は物体にもとづいた相対的なものだが、行為は観察者の視点に依存し、実際の計測値をもちいる。
知覚システムは知識にもとづいてトップダウン的に働くが、行為システムは、光学的配列をもとに、ボトムアップ的なやり方で自動的に働く。」(p133)
「背側経路の活動が意識されることはないので、「知覚」という用語を用いるのは適切ではない。
背側経路は、外界の視覚的表象を与えるという仕事をしているわけではない。しているのは、視覚情報を行為に直接変換することだ。」(p160~)
「視覚は単一のものではなく、私たちの体験する視覚現象も視覚脳の働きのひとつの側面しか反映していない。
視覚が私たちのために行うことの多くは、体験の外にある。
実際、私たちの行為の大半は、本質的に自動的なシステムによって制御されており、まったく意識にのぼることのない視覚的計算を用いている。」
「確かに、脳の構造の点では、二つの経路が相互に連絡していることを明確に示す証拠がある。しかし、
腹側経路が、背側経路にも理解できるように意図した目標物の位置を座標系内でどのように表示しているのか」
結局「腹側経路は光景にもとづく座標系で機能し、観察者を基準にするのではなく、外界にあるさまざまな物体を基準にして、
そのなかにある物体がどこにあるかを知っている。
しかし、ものとつかむといった行為を制御するためには、背側経路は、ほかの物体との位置関係によるのではなく、
手に対してその物体がどこにあるのかを、」「ボールを蹴るといった行為なら、背側経路は足に対してボールがどこにあるのかを知らなければならない。
つまり、二つのシステムはまったく異なる準拠枠を用いている(実際、違う言語を話している)」(p141)
(グッデイル&ミルナーの基本思想)
「究極的には、脳が行うことはすべて行為のためである。
そうでなければ、脳は進化しなかったはずである。」「自然淘汰は行為の産物に作用するのであって、思考だけの産物に作用することはない。」(P150)
二つの経路相互の連絡についての著者らの仮説。 (p141~)
「二つのシステムに送られる情報が同一の源 ―網膜と一次視覚皮質のような初期の視覚領野― に由来するという事実を利用する」
「低次の視覚情報処理装置には、眼に映る光景の二次元の「スナップショット」が含まれている。
この情報は、二つの経路に別々に送られ、異なる目的のために使われるが、どちらの経路も実際には双方向性がある。つまり、
二つの経路の高次領域から、一次視覚皮質への逆向きの投射が多数ある」「最近の研究では、逆向きの投射のほうが通常の上行性の投射よりも数が多い」
「このことは、二つの経路が、共有する入力信号源へのこうした逆向きの投射を通して、間接的に連絡し合っていることを意味する。」
(*グッデイル&ミルナーの2004年仮説のイメージの概要だけならこれで充分だが「体外離脱」に関係する可能性があるかもしれない箇所を追加引用)(p142~)
「(逆向きに投射された)初期段階の信号は依然として網膜座標で符号化されているので、
この共通した準拠枠を用いて、腹側経路は背側経路のために目標物の位置に印をつけることができる。」
「目標物が網膜マップ上で表示されれば、背側経路が用いる必要のあるどんな座標系にでも変換することが可能になる。」
「(*ものを掴む場合)背側経路はまず、頭部を基準に眼球の位置を計算し、次に身体を基準に頭部の位置を計算して、
最後に身体を基準に手の位置を計算する。こうすれば、手に対して目標物がどこにあるのかわかる。」
「つまり背側経路は、いったん目標物の網膜上での位置がわかれば、その情報を多くのさまざまな行為を制御するのに必要な形式にいつでも変換できる。」
「最近のfMEI研究(*2004年当時)による証拠は、LIP(*頭頂間溝の真ん中あたりにある眼球運動に関連した領野)が
最新の注意の「サーチライト」をなんらかのやり方で腹側経路に送っているということを示唆している。」
著者らは、「みな推論にすぎず、かなり単純化して考えているようにみえます。
いまのところ、二つの経路がどのように連絡し合っているかについては確実なことがわかっているわけではない。」と断っています。
関連
・ DFに関連したグッデイルの最近の論文(2014) グーグル翻訳で読む限り、DFが物を把持する能力は触覚フィードバックよりも視覚フィードフォワードに依ると言ってるらしいです。
(google翻訳依存につき不確か)(著書ではフィードフォワードはボトムアップ(上行系)。逆はトップダウン=フィードバック(遠心系))
・ グッデイルの論文リスト
・ ミルナー(A. D. Milner): 患者DFに関する2012年論文 _googleのページ翻訳が不能で内容はおぼろげにしかわかりませんが、LO野の位置が示された図があります.
→(a)患者DFの脳右半球.青色で示した部分がLO野 (b) 底部から見たD.F.の大脳半球(LO野の障害が両側性であることを示す)(”横断翻訳”)(2015.05.12閲覧)
・ pooneilの脳科学論文コメント[カテゴリー別保管庫] 腹側視覚路と背側視覚路 Goodale & Milnerに触れてます
※日本語インターネットだけを見ている限り今のところ門外漢には"LOC(Lateral Occipital Complex)"とLO野(lateral occipital area)の関係が、よくわかりません。
京大系サイトではLOCを「高次物体処理領野」とし、小嶋祥三氏は京大名誉教授でもありますが「脳と心」第2章では「外側後頭複合領域」とし、
順天堂大学の北澤茂氏の資料P31では「側方後頭皮質」と訳語も一定していないように思えます。
小嶋氏のpdfにはこの本の著者Goodaleの論文も取り上げられているが、その際の表記は [LO野]ではなく[LOC]となっている。グッデイルのこの本ではLO野は腹側経路の重要な一部として位置づけられていますが、
小嶋氏は、「対象特異的脳領域」とし腹側経路から外しています。
専門家間で語彙の定義や見方の一致がまだないという事なのか、2004年頃と最近では呼び名と範囲が変更されたのか、
日本語しか読めない門外漢にはわかりません。
(偶然なのか、理由があるのか門外漢には判りませんが日本の脳関連サイトでLO野の詳細な記述を見かけることはほぼなく、wikipediaや脳科学辞典にも全く記載がないのは不思議です。
(2015年2月8日現在-サイト内検索 ヒット件数ゼロ)。
*文中に出てくるOSM(オブジェクト置き換えマスキング Object substitution masking)について。
・『注意をコントロールする脳』苧坂直行編 2013(社会脳シリーズ3)
「短時間呈示された二つの刺激が、時間的・空間的に近接する場合に、両者の間に知覚的な妨害効果が生じることをマスキングという」
「二つのアルファベット(*たとえばKの後にM)が同じ位置にそれぞれごく短時間(たとえば50㍉秒(*0.05秒)ずつ続けて呈示された場合、
どちらも明瞭に見えるかというとそうではない。後続の「M」は明瞭に知覚される一方で、先行する「K」はしばしば認識できなくなる。
この現象は、後続刺激が先行刺激の見えを時間的に遡って阻害することから、逆向きマスキングと呼ばれる。
..二つのアルファベットの間に充分な空白時間(500ミリ秒(*0.5秒)程度を挟むと、もちろん「K」も「M」もしっかり認識できる。
クラウディング(*空間または時間的に近接した妨害)は今この文章を読んでいる瞬間にも生じており、
少し上下左右に離れたところに文字があるのは分かっても、混み合い過ぎていて何の文字かは実際にそこに眼を向けないと分からない。」
**OSM(オブジェクト置き換えマスキング)は、
たとえば二つの刺激(ターゲットとその認知を妨害するマスキングオブジェクト)を並べて同時に呈示しても、
ターゲットが先に消え、マスキングオブジェクトが少し長く残存すると、ターゲットの正答率が落ちる現象をいう。
以下、同書よりLOCに関する記述。
「カールソンら(Carlson er al. 2007)は、fMRI順応(fMRI adaptetion)と呼ばれる手法を用いて、
刺激条件は同一であるにもかかわらず、OSMが生じてターゲットが報告できなかった場合には、
オブジェクト認知にかかわる脳領域の外側後頭複合体(lateral occipital complex: LOC)でターゲットが表象されていないが、
ターゲットが報告できた場合には 、LOCでターゲットが表象されていることを示した。
したがって、OSMによってターゲットに関する意識的知覚が生じないときには、
LOCにおけるターゲット表象が残存するマスク表象に置き換わっている可能性が示唆された。」(p171)
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